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Writer's pictureHayato Shimabukuro

Wouthuysen-Field effect


関連論文を色々読んだので備忘録を兼ねてメモ。

21cm線の物理を勉強する時、必ず遭遇するのがWouthuysen-Field effect.

そもそも、21cm線とは中性水素のhyperfine structure由来の電波であり、singletとtriplet間のスピン状態の反転によって生じる。したがって、この2つのエネルギー準位間での状態の遷移を起こす必要があり、その際に考えられる1つのメカニズムがWouthuysenとFieldによって提唱されたWouthuysen-Field (WF) 効果である。

WF effect

図に示した様に、Lyman-alpha photonを吸収することによって、singletの状態からn=2の状態に一度遷移した後、triplet状態に落ちてくることでsingletとtripet間のエネルギー遷移を実現する

WF効果が最初に提唱されたのはWouthyusen (1952)である。この論文では上の図に示したようなエネルギー状態の遷移が提唱された。

さて、WF効果と言った時、上記のプロセスでエネルギー状態の遷移が起きることだけではなく、21cm線を特徴づけるスピン温度(spin temperature) T_sが銀河間物質(IGM)の力学的温度(kinetic temperature) T_kとカップリングする(T_s ~ T_k)ということとセットで説明される。

スピン温度とは、singletとtripletにある粒子数の比をボルツマン分布で表した時に定義される「温度」であり、何だかイマイチ想像がしづらい。一方で力学的温度は粒子の運動の激しさを「温度」に換算したものでありイメージがしやすい。

WF効果によって、いまいち想像が難しいスピン温度が力学的温度とカップルすることで、21cm線の状態をIGM中の水素原子の運動の度合いで理解できるようになる。

青い線がスピン温度で緑の線が力学的温度。z=20あたりでスピン温度が力学的温度とカップルしている。

スピン温度が力学的温度にカップルするということのは、実はWouthyusen(1952)では述べられていない。これを示したのはField (1959a)である。Field (1959a)では、ライマンα光子の有無や、中性水素密度、力学的温度の条件を色々考慮した上で、ライマンα光子が大量に存在する状態かつ、力学的温度がa few hundread Kよりも低い場合にスピン温度と力学的温度がカップルするというのを示した。

以上がWF効果の説明であるが、実は、わずか1ページちょっとのWouthyusen(1952)のメインの話は、エネルギー準位間の遷移ではなく、interstellar medium中でライマンα光子のprofileは散乱によってプランク分布になるだろうという予想である。(補足:ライマンαの波長を持つ光子だけが吸収されるのではなく、量子力学的にはライマンαの波長を中心として、吸収される波長には幅がある。これを特徴づけるのがprofileである。)

スピン温度同様分かりづらい「温度」の概念に色温度(color temperature)T_aがある。これはライマンα光子の放射・吸収によってエネルギー準位が遷移した状態をスピン温度同様、ボルツマン分布を用いて温度で表す時に用いられる。 Wouthyusen (1952)では、中性水素の数密度が大きく、ライマンα光子が大量に存在する時、ライマンα光子のprofileがプランク分布になるという「予想」がされている。実際にこの予想はField (1959b)によって示された。Field(1959b)では「高い中性水素数密度の中にライマンα光子が大量に存在するとき、ライマンα光子のプロファイルはT_a~T_kのプランク分布になる」ということが示されている。そして、このT_a ~T_kという条件は21cm線に関する話ではよく出てくる。

また、この考察をさらに発展させて、膨張するガスの中、ライマンα光子にさらされている状況で、T_a ~ T_kが成り立つことを示したのがDeguchi & Watson (1985)であり、日本人が貢献している。

以上が、WF効果に関するちょっとしたメモである。


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